ガスタービン燃焼の能動制御

分散型エネルギーシステムの中核を担うマイクロガスタービンで使用される小型燃焼器では、高い負荷変動に伴い、クリーン安定燃焼の維持に課題を有します。本テーマでは、ガスタービン燃焼の典型的な熱流動である燃料・空気同軸噴流を対象とし、微小アクチュエータ群により、噴流の渦構造・混合の動的な制御を行うことで、異なる負荷状況で燃焼特性を改善することを目的としています。

・マイクロ噴流アクチュエータによるメタン・空気同軸噴流の混合・燃焼の能動制御

ここでは、ノズル内壁に配備したマイクロ噴流アクチュエータを用いることで、メタン・空気同軸噴流の渦構造・混合・燃焼を動的に制御することを目的としました。図1は、能動制御用同軸ノズルです。中心(Di = 10 mm)および環状ノズル(Do = 20 mm)からメタンおよび空気が噴出され、同軸自由噴流を形成し、環状ノズル内壁に設けたマイクロ孔群(Dm = 1.0 mm,本実験では12個)からの空気の吹き出しにより、初期外側剪断層に速度撹乱を投じます。微小噴流の周期的な制御には、高速応答バルブを用いています。制御パラメータは,サーボ弁の駆動周波数で定義したストローハル数Stvとし,駆動信号波形は,同じ流量でも瞬間的に強い速度撹乱を与えられるパルス波としています。図2は、計測装置の模式図で、渦構造の評価には、サーボ弁の駆動信号の位相で固定した粒子画像流速計(PIV)を用いています。
 図3は、自然および制御噴流(Stv = 0.3, 1.1, 1.6)の可視化像です。自然噴流では、x/Do = ~1.0から緩やかに渦輪が巻き上がりますが、制御噴流では、微小噴流の周期的な吹き出しに同期して早期に内外剪断層に渦輪が生成されます。ただし、Stv = 0.3の条件では、渦輪の放出が間欠的であるため、メタン流が流れ方向に分断され、混合気の濃度は時間的に不均一になります。一方、Stv ≧ 1.1では、渦放出が連続的となります。図4は、Stv = 1.1および1.6における制御噴流の位相平均速度場および速度勾配テンソルの第二不変量Qが負となる領域の等値線図です。両条件において渦生成が連続的であることが明確に観察され、また一方で渦の大きさは、Stvの上昇に伴い小さくなることが分かります。即ち、本制御手法では、Stvを変化させることで渦径を調整し、均一混合のみでなく剪断層近傍で局所的に混合するなど、二流体の混合特性を柔軟に制御できます。さらに、図5は、Stereoscopic-PIVにより取得した流れ方向に軸を持つ渦(縦渦)の構造です。自然噴流はきれいな円形をしていますが、制御噴流では回転方向の異なる1対の縦渦が形成され、これも混合促進に大きく寄与することを明らかにしています。
 以上を踏まえ、ノズル下流に設置した保炎器の後流に形成される火炎を対象として、保炎器上流での混合制御が火炎に与える効果を評価しました。図6aは、自然噴流およびStv=1.1の制御噴流火炎の直接写真です。制御により上流で混合が促進するため、燃焼反応が速やかに進行し火炎長さが短縮され,輝炎(すす)の発生も顕著に抑制されることが明らかとなりました。図6bは、各レイノルズ数での、非制御・制御火炎における保炎限界です。図中には、メタン・空気混合気の希薄可燃限界も併せて示していますが、制御により保炎限界が希薄側に大きく拡大することが分かります。特に、Stv = 1.6では、希薄限界より低当量比の条件でも火炎を安定保持できます。これは、小さな渦により局所的に混合が進むことで、可燃混合気を安定して火炎に供給できるためと考えられます。一方、Stv = 1.1での保炎限界は希薄限界とほぼ一致しており、この条件で混合が均一に進んでいることを示唆しています。


図1 マイクロ噴流アクチュエータ群を備えた同軸ノズル

図2 位相ロックPIVシステムの模式図

図3 自然噴流および制御噴流の可視化像: (a,e) 自然噴流, (b,f) Stv = 0.3, (c,g) Stv = 1.1, (d,h) Stv = 1.6

図4 制御噴流の位相平均速度ベクトルおよび速度勾配テンソルの第二不変量: (a) Stv = 1.1, (b) Stv = 1.6

図5 流れ方向に軸を持つ渦(縦渦)の構造: (a) 自然噴流, (b) Stv =1.1


図6 火炎上流の混合過程の操作による燃焼制御の結果: (a) 非制御および制御火炎の直接写真, (b) 非制御および制御火炎の希薄燃焼限界

・模擬バイオガス燃焼の能動制御

バイオマス由来のガス燃料は、ガスタービンなどに供給することで直接発電することができ、バイオマスの持つエネルギーを効率的かつ系統的に利用できる可能性を有します。しかし、バイオガスは、窒素や二酸化炭素などの不燃成分を多く含むため発熱量が低く、またガス化炉の状況により可燃・不燃成分の組成割合が変動するため、高効率・安定燃焼の維持が難しいです。ここでは、上述のマイクロ噴流アクチュエータを適用することで、異なる燃料組成の条件下で燃焼特性を改善することを目的としました。メタンを窒素あるいは二酸化炭素で希釈した模擬バイオガスを対象とし、希釈率に応じて混合過程を制御することで、燃焼特性の改善を図っています。Stvを高くし局所混合を達成することで、高い希釈率の条件下でも火炎を安定維持できることが分かりました(図7)。さらに、希釈率に応じて適切なStvを選択することで一酸化炭素(CO)の排出量を顕著に改善できることを明らかにしました(図8~10)。


図7 バイオガスの可燃限界の制御結果

図8 希釈率10%におけるCO排出量の制御結果

図9 希釈率30%におけるCO排出量の制御結果

図10 希釈率40%におけるCO排出量の制御結果